国産シルクを草木で染める。ISILKが始める新しい染色のかたち
草木染めという言葉を聞くと、どんな色を思い浮かべるでしょうか。
ベージュ、茶色、カーキ。
自然で優しい色である一方、少し素朴で、昔ながらの工芸品のようなイメージを持つ方も多いかもしれません。
私たちISILKが現在取り組んでいるのは、そのイメージとは少し違う草木染めです。
目指しているのは、秩父地域で生まれる植物資源を使いながら、現代のファッションとして成立する色をつくること。
そして、その色を国産シルクと組み合わせ、新しい素材として製品につなげていくことです。

地域には、まだ使われていない「色」がある
秩父には、山や畑、農業、食品加工などから生まれるさまざまな植物資源があります。
例えば、
カボスの枝葉。
黒文字の枝葉。
黒文字から精油を抽出した後に残る植物。
栗のイガや鬼皮。
ぶどうの皮。
そして、杉や檜をはじめとする山の木々。
製品として使われる部分だけを見れば、その多くは必要のないものとして扱われてしまいます。
しかし、「色」という視点から見てみると、そこにはまだ利用されていない可能性があります。
ISILKではこれまで、植物由来の素材を使った染色について試験を重ねてきました。
例えば、カボスの枝葉。
ただ植物から出てきた色をそのまま使うのではなく、藍やコチニールなど異なる染料との組み合わせも試しながら、色を設計してきました。
現在、新たに検討しているのが栗です。皆野町のポロタンというブランド栗。
秋になると栗の収穫とともに出てくるイガや、加工時に取り除かれる鬼皮。
こうした通常は主役にならない部分にも、染料として利用できる可能性があります。
大切なのは、「捨てられるものを使った」ということだけではありません。
秩父にある植物を色の原料として捉え、そこからどれだけ魅力的な色をつくれるか。
そこが私たちにとって一番重要です。

「草木染めだから、この色」にはしたくない
植物で染めれば、それだけで良い製品になるわけではありません。
ここは、私たちが特に大切にしている部分です。
栗のイガを使えば、グレーやブラウン系の色を出すことができます。
黒文字、カボス、ぶどう、杉、檜にも、それぞれ異なる色の可能性があります。
それ自体はとても面白い。
しかし、植物から出てきた色をそのまま製品にするだけでは、一般的な「草木染め」のイメージから大きく離れることはできません。
自然の色は素晴らしい一方で、ファッションというフィルターを通して見ると、色が薄かったり、鮮やかな色を出しにくかったり、ロットによって色が揺れたりと、さまざまな制約があります。
一方、化学染料は非常に優秀です。
狙った色をつくりやすく、再現性も高く、鮮やかな色も表現できる。
だから私たちは、草木染めと化学染料のどちらが優れている、という話をしたいわけではありません。
考えているのは、植物から生まれた色をベースに、どうすれば現代のファッションとして欲しいと思える色にできるのか。
そのためには、植物から抽出した色をそのまま使うだけでなく、重ね染めや異なる染料との組み合わせ、濃度、媒染方法などを検証しながら色を設計していく必要があります。
ISILKがつくりたいのは、
「植物で染めたから価値がある服」ではなく、「欲しいと思った服が、実は地域の植物から生まれた色だった」という製品です。
これは、私たちがこれまでファッションの世界で培ってきた感覚を活かせる部分でもあります。
捨てられるものは、一度で役割を終えるとは限らない
ISILKでは、秩父に自生する黒文字をベースに、精油を抽出し、フレグランスブランドBLACKLETTERSを展開しています。
その取り組みを続ける中で感じてきたことがあります。
一つの植物は、一度使ったら終わりではないということです。
例えば黒文字から精油を取る。
その後に残った枝葉にも、まだ植物の成分は残っています。
そこから色を取り出せるかもしれない。
さらに、その後に残るものにも別の用途があるかもしれない。
一つの地域資源を、幾重にも使う。
最初から「廃棄物」として考えるのではなく、その植物が持っている価値を最後まで探してみる。
黒文字を扱ってきた経験から、私たちはその可能性を実感しています。
だからこそ、カボス、栗、ぶどう、杉、檜などについても同じ視点で見ていきたいと考えています。

なぜ、今こうした素材を考えるのか
草木染めは量産に向かない。
養蚕も手間がかかる。
国産シルクは海外産のシルクや化学繊維と比較すれば高価です。
これまで大量生産・大量消費が前提だった時代には、こうした素材や生産方法は効率が悪いものとして縮小してきました。
より安く。
より早く。
より均一に。
その結果、アパレル産業ではポリエステル、ナイロン、アクリルなどの化学繊維が大きく普及しました。
天然素材についても、現在の日本では綿やウールをはじめ、多くの原料を海外に依存しています。
それはこれまで、非常に合理的な選択だったと思います。
しかし世界情勢やエネルギー価格、物流、為替、気候変動など、さまざまな条件が大きく変化する時代に入りました。
原料を海外から買うことが当たり前だった産業にとって、「原料がどこから来ているのか」「どこまで自分たちで把握できているのか」ということは、これまで以上に重要になっていくと考えています。
原料から追えるものづくりを、もう一度つくる
ヨーロッパを中心に、アパレル産業でも原料のトレーサビリティが重要視されるようになっています。
どこで原料が生まれたのか。
誰が育てたのか。
どこで加工されたのか。
どんな工程を経て製品になったのか。
完成した製品だけではなく、その背景にあるサプライチェーンそのものが問われる時代になっています。
だからISILKでは、秩父で実際に養蚕を行いながら、
桑畑 → 養蚕 → 製糸 → 撚糸 → 精練 → 加工 → 染色 → 製品化
までをつなげる取り組みを進めています。
私たちが「シルク一元化」と呼んでいる構想です。
すべてを一社だけで抱えるという意味ではありません。
それぞれの技術を持つ人や企業とつながりながら、原料から製品までの流れをもう一度見える形にする。
そのサプライチェーンを日本に残しておくこと自体が、これからのものづくりにおける一つの競争力になると考えています。
製品を染めるのではなく、「糸」から考える
今回の取り組みでもう一つ重要なのが、糸染めです。
服が完成してから染める製品染めではなく、シルクを糸の段階で染色し、その糸からニットなどの製品をつくります。
原料から色、そして製品までを一本の流れとして考える。
ここにも、シルク一元化の考え方があります。
例えば、
秩父で桑を育てる。
蚕を育てる。
その繭から糸をつくる。
そして秩父で生まれた栗のイガや、ぶどうの皮、黒文字などから色を取り出す。
その色でシルク糸を染める。
染めた糸からニットをつくる。
そうなれば、
「地域で育てた蚕から生まれたシルクを、地域の植物から取り出した色で染め、製品にする」
というところまでつながります。
「国産シルク × 地域資源」を一つの素材にする
今回の取り組みでは、川口市で就労支援事業などを行う株式会社リズムと共同で、植物由来の染色と国産シルクを組み合わせた素材開発を進めています。
2026年度には埼玉県のサーキュラーデザインに関する事業にも採択され、実際の染色技術を学びながらサンプル開発を進めています。
ただ、私たちが目指しているのは「草木染めの商品を一つつくること」ではありません。
地域で生まれる植物資源を探す。
染料として使えるものを選ぶ。
そこから色を取り出す。
必要であれば別の色を掛け合わせる。
シルク糸を染める。
その糸を編む。
そして製品として成立させる。
さらに、その色がどの地域の、どの植物から生まれたものなのかまで伝える。
植物そのものではなく、「地域から生まれた色」を素材にしていく。
そんな取り組みにしていきたいと考えています。
シルクだからできる色を探す
シルクには独特の光沢があります。
同じ色でも、綿やウール、化学繊維に染めた場合とは見え方が異なります。
光を受けたときの表情。
色の奥行き。
見る角度によるわずかな変化。
だからこそ、植物から生まれる色の揺らぎも、シルクと組み合わせることで新しい表現になる可能性があります。
効率や均一性だけを考えれば、化学染料の方が優れている部分はたくさんあります。
私たちも、草木染めですべてを置き換えようとは考えていません。
むしろ重要なのは、それぞれの特徴を理解した上で、植物から生まれる色をベースに、現代のファッションとして成立する色をつくること。
そのためなら、異なる植物を組み合わせてもいい。
藍などの染料を重ねてもいい。
媒染を変えてもいい。
何度も染めてもいい。
出発点にあるのは、秩父の山や畑から生まれた植物です。
でも、ゴールにあるのは「草木染めらしい色」ではありません。
純粋に、いい色です。

秩父の山から、どれだけの色をつくれるだろう
カボスの枝葉。
黒文字の枝葉。
精油を抽出した後の黒文字。
栗のイガや鬼皮。
ぶどうの皮。
杉や檜。
探していけば、秩父にはまだまだ多くの植物資源があります。
それぞれからどんな色が取り出せるのか。
どんな組み合わせなら、新しい色になるのか。
そして、その色をシルクに染めたとき、どんな表情になるのか。
まだ分からないことばかりです。
だから、まずは実験してみる。
植物の種類、抽出方法、濃度、染料との組み合わせ、媒染、染色条件。
そして何より、
「この色の服が欲しいと思えるか。」
そこを基準に一つずつ検証していきます。
完成した製品だけではなく、そこに至るまでの実験や失敗も含めて、これから記録していきたいと思います。
地域にある植物から、色をつくる。
その色で、地域から生まれたシルクを染める。
そして、現代のファッションとして世界へ届ける。
小さな染色実験から始まった取り組みですが、これもISILKが目指しているシルク一元化の、大切な一つのピースです。
