約5,000頭の養蚕を終えて見えたこと|秩父シルク一元化に向けた実証結果
9月16日からスタートした、約5,000頭の蚕の飼育。
今回の養蚕は、株式会社ISILKが進めている「秩父シルク一元化構想」に向けた実証の一つとして行いました。
これまで私たちは、国産シルクを取り巻く現状や、秩父で養蚕を再び行う意味について、このブログでも何度かお伝えしてきました。
しかし、資料を読んだり、養蚕農家の方から話を聞いたりすることと、実際に自分たちで蚕を育てることはまったく違います。
今回、約5,000頭という小さな規模ではありますが、実際に桑を用意し、蚕を育て、10月には上蔟まで終えることができました。
そこで今回は、実際に養蚕を行ったことで見えてきたこと、そして次に何を変えていく必要があるのかを書いてみたいと思います。

約5,000頭の蚕を育てる
今回の飼育は9月16日からスタートしました。
蚕は成長の途中で「眠」と呼ばれる、桑を食べずに脱皮の準備をする期間を繰り返しながら大きくなっていきます。
9月21日頃には眠から明け、その後3齢、4齢と成長。
9月27日には5齢に入りました。
そして10月4日頃から回転まぶしを使用して上蔟を進め、10月7日にはほぼすべての蚕の上蔟を終えることができました。
約3週間。
期間だけを見るとそれほど長く感じません。
しかし、実際にやってみると、その約3週間の中に養蚕を続けていくための課題がいくつも見えてきました。今回は特に気温と長雨の影響で、桑をどのタイミングで取って、濡れ桑にならずにあげられるか

養蚕をやって分かった「桑」の重要性
養蚕を始める前は、当然ですが「どうやって蚕を育てるのか」ということに意識が向いていました。
しかし実際にやってみると、非常に重要なのが「桑」です。
特に5齢に入ると、蚕が食べる桑の量は一気に増えていきます。
桑を刈る。
運ぶ。
蚕の状態に合わせて与える。
そして、また次の桑を用意する。
蚕を育てることと、桑を安定して確保することは切り離して考えることができません。
養蚕を産業として継続していくのであれば、単純に「蚕を何頭飼育できるか」だけではなく、その規模に対してどれだけの桑が必要なのか、どのように収穫し、どのように運び、どのように保管するのかまで設計する必要があります。
今回、実際に養蚕を行ったことで、この「桑の供給」をどうつくるかが非常に重要だと改めて感じました。

同じ環境でも、すべての蚕が同じように育つわけではない
もう一つ印象的だったのが、蚕の成長には個体差があるということです。
同じ場所で、同じように桑を与えていても、すべての蚕がまったく同じタイミングで成長するわけではありません。
成長が早い蚕もいれば、少し遅れる蚕もいます。
また、桑の状態や気温、湿度などによっても蚕の様子は変わります。
実際の飼育では、蚕の状態を見ながら給桑や管理方法を調整していく必要がありました。
ここには、長年養蚕に携わってきた方々の「経験」が非常に大きく関係しています。
数字だけでは判断できないことが、まだたくさんあります。
経験を「データ」として残していく
一方で、これから養蚕を継続していくためには、経験だけに頼らない仕組みも必要だと考えています。今回の実証では、飼育環境の温度や湿度についても記録を行いました。いつ、どのくらいの温度だったのか。湿度はどう変化していたのか。その時、蚕はどのような状態だったのか。
こうしたデータを積み重ねていくことで、熟練した養蚕農家の方が感覚的に判断してきたことを、少しずつ可視化できるのではないかと考えています。これは、これまでの養蚕技術を否定するためではありません。むしろ逆です。長年培われてきた経験や技術を、次の世代に残していくためにデータを使う。経験とデータを組み合わせることで、養蚕に初めて携わる人でも一定の品質で飼育できる仕組みをつくっていきたいと考えています。

「人がやる仕事」と「機械に任せる仕事」
今回、実際に養蚕を行ったことで、もう一つ考えるようになったことがあります。それは、
「本当にすべての作業を人がやる必要があるのか」ということです。
桑の収穫や運搬。
給桑。
除沙。
温度・湿度の管理。
飼育環境の確認。
上蔟。
養蚕にはさまざまな作業があります。
もちろん、蚕の状態を見て判断するなど、人の経験が必要な仕事はあります。一方で、温湿度の管理や記録、桑の運搬、作業動線など、設備や機械、データを活用することで負担を減らせる部分もあります。昔と同じ方法をそのまま再現するだけでは、現在の日本で養蚕を産業として続けていくことは難しいと考えています。だからこそ、残すべき技術と、新しく変えていくべき部分を分けて考える必要があります。

目的は「養蚕農家を増やすこと」ではない
ISILKが目指しているのは、単純に養蚕農家を増やすことではありません。もちろん、養蚕に携わる人が増えることは大切です。しかし、繭を作る人だけを増やしても、その先につながる産業がなければ持続することはできません。
桑を育てる。
蚕を育てる。
繭をつくる。
生糸にする。
糸を撚る。
精練する。
生地や製品にする。
そして、最終的に商品としてお客様に届ける。
これらが一つの流れとしてつながり、それぞれに仕事と価値が生まれることが重要だと考えています。私たちが進めている「秩父シルク一元化構想」は、その流れをもう一度地域の中につくるための取り組みです。

「養蚕を残す」から「続けられる養蚕をつくる」へ
秩父には、養蚕や織物とともに発展してきた歴史があります。しかし、歴史があるという理由だけで産業が残るわけではありません。大切なのは、その歴史を過去のものとして保存することだけではなく、現在の社会に合った形に変えながら、実際に存在する産業として次につないでいくことだと思っています。今回の約5,000頭の養蚕は、決して大きな規模ではありません。
それでも、自分たちで桑を刈り、運び、蚕を育て、上蔟まで経験したことで、机上では分からなかったことがたくさん見えてきました。
そして同時に、
「ここを変えれば、もっとできる」という可能性も見えてきました。次に必要なのは、単純に飼育する蚕の数を増やすことではありません。
桑の供給方法。
飼育設備。
作業動線。
温湿度管理。
データの蓄積。
そして、製糸から商品化までを含めた仕組み。
一つひとつを検証しながら、少ない人数でも継続できる養蚕の形をつくっていきます。秩父に養蚕を「残す」のではなく、これからも続けられる産業として、もう一度つくる。
今回の約5,000頭は、そのための最初の実証になりました。
ISILKでは、これからも秩父シルク一元化に向けた取り組みを、このブログを通してお伝えしていきます。
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